15時30分過ぎ、天気予報どおりではあるものの、雨が降り出す。正直、天に嘆きたくなる程の勢いだ。
この試練ともいえるタイミングでステージのACTを務めるのはキュウソネコカミ。2009年に関西学院大学の軽音楽部の同期を中心に結成されたVo/Gt ヤマサキ セイヤ、Gt オカザワ カズマ、Ba カワクボ タクロウ 、Key/Vo ヨコタ シンノスケ、Dr ソゴウ タイスケという5人組ロックバンド。地元・兵庫県西宮に拠点を活動しながら全国区で熱い支持を獲得。現在の西の音楽シーンにおいて代表格とも言えるバンドだ。常にロックフェスにも引っ張りだこ状態の彼らだが、イナズマに登場するのは2015年以来4年ぶりの出演である。
登場SEもないまま、勢いよくメンバーがステージに現れる。
「西宮のキュウソネコカミ!リハから本気出していいですか!?」
ロックフェス恒例とも言える“公開の音出しリハーサル”では、CMソングにもなった強力なアッパーチューン「MEGA SHAKE IT!」を出し惜しみすることなく披露する。
「ありがとう!この雨だし、もうみんな行けちゃう?…とっとと始めて欲しい!?…もういっちゃいましょう!!」
そんな一言でスタッフに合図を送ると、ヴィジョンに映像が流れ彼らのLIVEがスタートする。
「イナズマロック フェス!雨の中の方が伝説になると思いませんか!?よっしゃこいや~!!」
最初に披露されたのは彼らのライブには欠かせない1曲「ビビった」。音楽業界やミュージシャンの悲哀をリアルに歌い上げる歌詞のナンバーだが、痛快なビートでめまぐるしく展開するサウンドがひたすら心地よい。続く「メンヘラちゃん」もアイデアを目いっぱい詰め込んだアレンジにも耳を奪われる。
歌詞の面白さやキャラクター、エンターテインメント性に注目されることの多い彼らだが、ライブバンドとしての実力は確かなもの。過酷極まりない状況ながら、気迫のこもった演奏で冷たい雨を忘れさせるほどオーディエンスを盛り上げていく。
3曲目は「推しのいる生活」。この曲は“推し=応援する対象“への想いが歌われたナンバーであるが、実に衝撃であった。ファンのいう存在がどのように“推し”と向き合っているのか。シンプルかつ複雑、趣味という一言では決して割り切れない切実さ、複雑な矛盾を抱えつつも愛するものの幸せを願う気持ちが歌われていくこれまでなかった“ラブソング”であり、「応援する」想いを抱くすべての人の心情を代弁しつつ、全肯定してくれる応援歌となっている。
曲間で「推しは推せる時に推せ~!!」と叫ぶヤマサキ。
ロックフェスは、さまざまなアーティストのファンが推しの活躍を期待し、成功を願いながら集まる場所である。そうした環境を考えてもこの曲ほどフェスに相応しいナンバーはなく、初めて彼らの存在を知った人であっても大きな共感を覚えたのではないだろうか。
しかし演奏のボルテージに合わせるかのように、雨はまた強まっていく。すでにメンバーたちも雨に打たれてずぶ濡れ状態だ。
「がんばれ滋賀!がんばれイナズマ!いくぞ!!」とステージ上から鼓舞しながら始まったのは「ギリ昭和」。メンバー全員が昭和から平成に切り替わる直前の世代であることがモチーフとなっている楽曲で「明治・大正・昭和・平成」というコーラスパートが印象的だ。後半では「令和!」と叫ぶパートも登場するが、実は部分は楽曲がリリースされた当時は存在せず、4月1日の新元号発表を受けて「ギリ昭和~完全版~」を完成させたというエピソードも彼ららしい。
続くMCでは「イナズマロック フェス」についての想いを語るヤマサキ。
「ありがとう!4年前で出させてもらった時は、HOT LIMITの衣装を着てやらせてもらいました。ただ、今年西川さんに会った時は、『もう音楽で勝負できるようになったんで、そういう小細工はやりません』と伝えたんです。俺たちはロックバンドなんだっていう自覚がこの4年間で芽生えたというかね。こうして雨が似合うロックバンドにもなった。」
「そう言えば4年前も、MCでびわ湖わんわん王国をネタにしてスベったんですが…さっきのリハでもう1回言ってみたら4年前以上にスベった(笑)みんな…びわ湖わんわん王国もう完全に忘れてるの?」
「だけど楽屋でイナズマロックフェスのパンフレットを呼んでたんですが、あれだけの出演者がコメントを書いている中で金属バットのお2人だけ、びわ湖わんわん王国のことにイジってました。だから僕らのことも今から金属バットだと思って観て下さい!よろしく!」
バンドとしての確かな成長を感じさせつつも、滋賀の地元ネタを盛り込むことを忘れないサービス精神が素晴らしい。
その後、ストレートな楽曲とメッセージ性が胸に響く人生讃歌「越えていけ」に続き、「伝えたいことは曲にして伝えていきます。この先も続けていこう!」と高らかに宣言して「The band」へ。この曲はまさにキュウソネコカミのバンドの歴史と現在を歌うかのような1曲。迷いや不安もありながらも根っこには強い決意と信念が込められているのが伝わってくる。
最後の曲は「TOSHI-LOWさん」。
この曲はBRAHMANのボーカリスト・TOSHI-LOWをイメージした楽曲であるという。TOSHI-LOWと言えば、見た目はもちろん、その表現活動、ステージパフォーマンスからも現在のロックシーンにおいても硬派で男らしいバンドマンの象徴ともいえる存在。本来、キュウソネコカミのイメージとは対極にあるかもしれないが、ここ数年でさらなる進化を遂げた現在の彼らだからこそ表現できる楽曲と言えよう。ボーカルのヤマサキもこの曲になるとTOSHI-LOWのように上半身裸になるのが恒例となっている。
が、ここで予想外の展開が待っていた。
ギターを置きTシャツを脱いだヤマサキ。すると、その上半身にはしっかりとHOT LIMITスーツが装着されていたのだ。4年前と同様、手作り感を隠し切れていないガムテープ製のHOT LIMIT。だが、ヤマサキ本人の表情は真剣そのものだ。前半からの長いフリが効きまくっていたこともあり、会場のオーディエンスは歓喜ともいえる盛り上がりに。
ヤマサキは、まさにTOSHI-LOWが乗り移ったかのように、客席へと降りていき観客に支えられながら前方のライブエリアを移動し激しくシャウト。誰もが雨のことなどすっかり忘れるほど、一体感の生まれた瞬間だった。
すべての演奏を終えるとキーボード・ボーカルのヨコタ「西川さんにはあとでちゃんと謝っておきます!もう終わりなので、ボーカルをステージに戻してあげてください!」と懇願。まだ興奮状態のヤマサキは「びわ湖わんわん王国でしたっ!」と叫び、鋭い眼差しのまま去って行く。その姿は完全にROCK’N’ ROLL STAR。
誰もがロックバンド・キュウソネコカミの本気を受け取った熱狂のステージ。僅か30分ながら、彼らが残した衝撃は、まさにイナズマそのものだった。
◆SET LIST◆
1 ビビった
2 メンヘラちゃん
3 推しのいる生活
4 ギリ昭和 完全版
5 越えていけ
6 The band
7 TOSHI-LOWさん
◆INFORMATION◆
http://kyusonekokami.com/